一筆の土地の一部だけを売却することはできるの?

日本は、土地の私有を認める国です

土地はすべて国のもの(国有)という考え方は、どの国にもあったようです。日本も同じです。でも、それでは米など食料の収穫が増える励みになりません。耕作する土地を増やして食料増産を図るために、奈良時代の8世紀、<自分で開墾した土地については3世代だけ私有を許す>という考えができ、さらにそれでは不十分だというので<永久に私有しても良い>という考え方に変わっていきました。
「荘園」(しょうえん)と言う言葉を教科書で見たことがあるでしょうか。貴族や大きな寺院、豪族が私有した大規模な私有地をそう呼ぶのですが、土地の私有という考え方がこうして広がっていきました。「年貢」という税金は、その土地の広さに応じ、主にお米で納めていました。土地の広さを測量しないと年貢は確定できません。それを検地と言います。「歩」「反(段)」「町」という土地の面積の単位は、8世紀ころからあったのです。
大規模に検知を行ったので有名なのが豊臣秀吉の「太閤検地」です。この時に、土地を測る物差しの長さを縮めることで、同じ面積なのに年貢を多くする仕組みを作ったのでした。実質増税ですね。
物差しで測るにしても、私有地と、隣の土地との境界はきちんと定めなければなりません。石や杭で定めますが、境界石、境界杭などで区切られた土地の単位を「筆」(ふで、ひつ)と呼んでいます。不動産の権利のまとまりの単位です。紙の台帳に筆で記録していた時代からの名残でしょう。「筆」を使い始めたのは、太閤検地よりももっと古くにさかのぼるようです。

すべてコンピュータ化されています

日本の国土約3779万ヘクタール(=37万7900万㎡)のうち私有地は53%、国有地は23%(大半は森林)、自治体所有の土地(公有地と呼びます)8%、道路、河川、浜辺など15%になっています。
身寄りが無く遺言もない人が亡くなりその人が土地を所有していれば、土地は国有地になりますが、利用できる土地はほとんどが私有地と考えていいでしょう。その土地が網の目のように筆単位で区切られているわけです。
日本の不動産の記録は、20年かけて2008年に、ごく一部を除き、コンピュータ化されました。それぞれの土地について所在地、地番、地目、面積が記載され、所有権者情報とともに登記情報として登記所(法務局)の磁気ディスクに記載されています。原則、土地・家屋1つずつまとめるのですが、マンションなど区分建物は、1部屋ごとに1筆になっています。そしてここには担保に入っている情報も記載されます。土地や建物には地番や家屋番号が付されていますが、お住まいの地域が住居表示実施のなされている地域であれば、住所が地番や家屋番号とは一致しません。

筆単位の土地でも一部を売れますが、登記には分筆しなければ

土地は原則筆単位に売買などの移転が行われます。さて、その一部だけを売る事ができるかとの問いですが「売れます」が答えとなります。
「1筆の土地の一部でもその一部が当事者に明確であるなどの一定の条件を満たせば譲渡することができる」と大正時代の大審院(今の最高裁判所)の判決がありました。この条件というのは、側溝を掘る、標識を設けるなどの方法を使って当事者同士で土地の区分を明確にすることです。「ここだけ売りたい」という人と「ここだけ買う」という人が合意して、所有権を移すことは行われていましたので、この判決は実際に行われてきたことを追認したと受け止められています。
しかし、当事者間で売買が成立したとしてもそれを第三者に客観的に明示するためには登記をしなければなりません。ところが登記法では1筆の一部のみを登記する方法は用意されていません。実態どおりに名義を変更するためには分筆(ぶんぴつ)登記という作業をしなければならないのです。

専門家の作業が必要です

分筆には、まず測量をして分けるところに境界杭を入れます。分ける前の土地の境界がきちんとしていれば売る人と買う人が立ち会えば済みますが、もし、きちんとしていなければ、分ける前に隣地の所有者立ち会いのもので境界確認が必要になり当事者が増えます。分筆登記をしたあと名義を新たな所有者へと変更する登記します。

合筆が必要になる場合もあります

一方、分筆の逆が合筆(がっぴつ)です。同じ所有者なのに多くの筆に分かれていると権利証が多くて分かりにくい、登記情報を取るときに費用が余分にかかる、土地を担保にしたり売ったりする時に設定登記費用や所有権移転登記費用が1筆ごとにかかるなど不経済な場合もあります。
このような場合は、分かりやすい形にするのに合筆という方法でまとめるのです。

筆というのは「権利のまとまり」を示すものです

このように「筆」は、不動産の権利のまとまりが単位なのですが、見た目1つの土地建物が、登記簿を調べてみると、別の筆になっていた、などの実例が今もあります。
ご自分で所有する不動産があれば、それがどんな単位でまとまっているのか、をきちんと知っておくことが望ましいでしょう。そのうえで対策が必要なら専門家に相談しましょう。

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