「相続で揉めるのはお金持ちの家だけ。うちは財産なんて実家くらいしかないから大丈夫」
もし、あなたがこのように考えているなら、その考えが一番危険かもしれません。
私たちは日々、多くの方の相続に関するご相談をお受けしていますが、意外な事実があります。それは、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割トラブルの約75%が、遺産総額5,000万円以下のごく普通の家庭で起きているということです。
そして、そのトラブルの火種になりやすいのが、「遺産のほとんどが実家の不動産のみ」というケースなのです。
今回は、なぜ「実家だけ」の相続が揉めやすいのか、そして、どうすれば兄弟姉妹で円満に遺産を分けられるのか。司法書士の視点から、3つの具体的な解決策を分かりやすく解説します。
なぜ「不動産だけ」の相続が揉めるのか?
その理由は、不動産は物理的に「平等に」分けることが極めて難しいからです。

現金や預金であれば、1円単位で公平に分けることができます。しかし、不動産はそうはいきません。
例えば、実家の土地を兄弟2人で半分に分筆(ぶんぴつ:一つの土地を複数に分けること)したとしましょう。
- 兄は、道路に面した日当たりの良い部分
- 弟は、奥まった日当たりの悪い部分
これでは、たとえ面積が同じでも、資産価値は大きく異なってしまいます。誰もが納得する分け方が難しいため、感情的な対立を生みやすく、結果として「争続」に発展してしまうのです。
【司法書士が伝授】不動産を円満に分ける3つの選択肢
では、どうすればこの難しい問題を乗り越えられるのでしょうか。不動産を相続した場合の分割方法には、大きく分けて3つの選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
【方法1】売却してお金で分ける「換価分割」 ― 最も公平な選択肢
これは、相続した不動産を第三者に売却し、得られた現金を相続人で分け合う、最もシンプルな方法です。

【メリット】
- 圧倒的な公平性: 1円単位で分割でき、感情的なトラブルを最も避けやすい。
- 将来の負担から解放: 固定資産税や修繕費、管理の手間といった将来の金銭的・精神的負担が一切なくなる。
【デメリット】
- 全員の同意が必須: 一人でも反対すれば実行できない。
- 税金と時間コスト: 売却益には譲渡所得税がかかり、売却活動には時間と手間がかかる。
- 価格の不確実性: 不動産市況によっては、希望価格で売れないリスクがある。
実務上は、この「換価分割」が採用されるケースが最も多いです。しかし、全員の協力と合意が不可欠であることを理解しておきましょう。
【方法2】相続人全員で共有名義にする「共有分割」 ― 問題を先送りする危険な選択肢
不動産の権利(所有権)を、相続分に応じて複数人で持ち合う方法です。「とりあえず」で選ばれがちですが、専門家としては最もお勧めできません。

【メリット】
- 一時的な解決: その場を収めるため、ひとまず遺産分割を完了した形にできる。
【デメリット】
- 不動産の塩漬け化: 将来、売却や活用をする際に全員の同意が必要となり、事実上何もできなくなるリスクが高い。
- 問題の複雑化(負の連鎖): 相続が繰り返されるたびに権利者が増え、解決がどんどん困難になる。
- 外部業者介入のリスク: 共有者の一人が自分の持分を業者に売却し、新たなトラブルに発展する可能性がある。
共有分割は、問題の解決をただ「先延ばし」にしているだけ、ということを覚えておきましょう。
【方法3】誰か一人が相続し、他の人にお金を払う「代償分割」 ― 家を残せるが資金力が鍵
ある相続人が不動産をすべて相続し、代わりに他の相続人には、それぞれの相続分に見合った現金(=代償金)を支払う方法です。

【メリット】
- 思い出の家を残せる: 売却せずに済み、誰かが住み慣れた家で生活を続けられる。
- 公平感を保ちやすい: 不動産をもらえない相続人も現金で公平に受け取れるため、納得しやすい。
【デメリット】
- 相続人の資金力が不可欠: 不動産を相続する人に、他の相続人へ支払うためのまとまった現金が必要。
- 不動産の評価額で揉めやすい: 代償金の基準となる不動産の価格(時価、路線価など)を巡って、相続人間で意見が対立しやすい。
円満な相続のために今からできること
ここまで3つの方法をご紹介しましたが、どの方法にも一長一短があることをお分かりいただけたかと思います。
一番悲しいのは、親が残してくれたたった一つの「実家」が原因で、仲の良かった兄弟の絆が壊れてしまうことです。
そうならないために、私たち専門家が最も重要だと考えていること。それは、親が元気なうちに、相続について家族で話し合う時間を持つことです。
・この家は将来どうしたいのか?
・誰かに残したいのか、それとも売却して分けるのか?
・もし分けるなら、どの方法が良いと思うか?
ぜひ、そういった時間を意識的に作ってみてください。そして、話し合って決まったことは、法的に有効な「遺言書」として形に残しておくことを強くお勧めします。
まとめ:最高の相続対策は、元気なうちの「家族会議」
今回は、相続財産のうち、金融資産が少なく不動産のみの場合にどうすれば良いかを解説しました。
どの方法を選ぶにしても、相続人同士の話し合いと合意が不可欠です。
相続について、何から手をつけて良いか分からない、専門家のアドバイスが欲しいという方は、お気軽に私たち杉山事務所にご相談ください。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

