「お父さんが亡くなったんだけど、実家の名義、お母さんにした方がいいのかな…?」
大切な方が亡くなられたあと、残された実家の相続について「どうすればいいのか」と悩む方は少なくありません。
特に、お父様が亡くなり、お母様と子どもたちが相続人となるケースでは、「とりあえずお母さんの名義にしておけば安心かな」と考える方も多いでしょう。
ですが、安易に実家の名義をお母様にしてしまうことで、後々、家族全員が後悔するような事態に発展する可能性もあるのです。
この記事では、司法書士法人杉山事務所の杉山先生の解説動画をもとに、実家をお母様名義にすることのメリット・デメリット、そして注意点について、具体的なケースを交えながらわかりやすくご紹介します。
将来のトラブルを防ぎ、家族全員が納得できる相続を実現するために、ぜひ最後までご覧ください。

今回のケース:父が亡くなり、実家を母名義にしたいが…
まずは、今回の動画で紹介されている具体的な相談内容を見てみましょう。
- 相続人:母、息子、娘の3人
- 状況:息子と娘はそれぞれ結婚し、すでに実家とは別の場所で生活中。実家には高齢の父と母が住んでいたが、父が他界した。
- 悩み:実家の名義を母にしたいと考えているが、それが本当に最善の選択なのか不安がある。
このようなケースは、決して珍しいものではなく、多くのご家庭で起こりうる状況です。
では、実家の名義をお母様にする場合、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
実家を母親名義にするメリット
まずは、名義をお母様に変更することで得られるメリットから見ていきましょう。
①お母様に安心感を与えられる
これは金銭的な利点というより、精神的な安心感を与えるという側面が強いメリットです。
長年連れ添ったご主人を亡くされたお母様は、大きな喪失感と将来への不安を抱えていることでしょう。

そんなときに、「実家の名義を子供にする」という話が出ると、
「もしかして、この家から出て行かなきゃいけないの?」
と、さらに不安を感じてしまうこともあります。
名義をお母様にすることで、「この家に住み続けられる」という安心感を持っていただけるのです。
② 子ども同士の権利争いを避けやすい
もし実家の名義を子どものどちらかにするとなると、
「なぜ自分ではなく、兄(妹)なのか?」といった不満が生じる可能性があります。
たとえば、お母様の介護を主に娘さんが担っていた場合、
仮に息子さんが「自分が家を相続する」と言い出すと、
「お世話もしないのに家だけもらうなんて」と、感情的な対立に発展することもあります。
名義をお母様にすることで、子どもたちの間で直接的な権利争いが起きにくくなるという点は、大きなメリットといえるでしょう。
③ 相続税の「配偶者控除」が使える
金銭的な面で最も大きなメリットは、相続税の「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」が使えることです。
この制度を使えば、配偶者(今回はお母様)が財産を相続する際に、
- 1億6000万円
- または法定相続分相当額
のどちらか多い金額までは相続税がかからないとされています。
そのため、多くのケースでは、実家をお母様が相続しても相続税が課税されない、または大幅に軽減されることになります。


実家を母親名義にするデメリット:将来の大きなリスク
実家をお母様名義にすることには一定のメリットがあるものの、将来的に家族全体が大きな問題を抱える可能性がある点にも注意が必要です。ここでは代表的な3つのリスクを取り上げます。
① お母様が認知症になった場合、実家を売却できないリスクがある
実家をお母様の名義にした後、数年が経ち――
もしお母様が認知症を発症してしまった場合、実家を売却したくても不動産の名義人本人が契約行為を行えないため、売ることができなくなります。

このような場合、家庭裁判所へ申し立てを行い、「成年後見人」を選任してもらう必要があります。
成年後見制度を使うことで売却は可能になりますが、
- 手続きに時間と費用がかかる
- 家族が後見人に選ばれるとは限らない
- 財産管理の自由度が制限される
といった課題もあり、柔軟な判断や売却が難しくなることがあります。
📝対策として注目されているのが「家族信託」です。
元気なうちに、お母様の財産の管理・処分を信頼できる家族(たとえば子ども)に託しておく契約を結ぶことで、認知症になった後もスムーズに実家の管理・売却が可能になります。
② 相続登記が2回必要になり、費用と手間がかかる
お父様が亡くなられた後、実家をお母様名義に変更した場合、その後お母様が亡くなったときには再び相続登記が必要になります。

つまり…
- 父 → 母(一次相続)
- 母 → 子(二次相続)
と、相続登記が2回必要になり、その都度、
- 登録免許税
- 司法書士への報酬
- その他の手続き費用
といったコストや手間がかかります。
名義を一度で子どもに変更するケースに比べて、長期的には負担が大きくなる可能性があります。
③ 二次相続で相続税が高額になる可能性がある
一次相続(父 → 母)の際には、「配偶者の税額軽減」が使えるため、相続税がかからない・少なくて済むケースが多くなります。
しかし、二次相続(母 → 子)の場面では、この配偶者控除は使えず、相続税の負担が一気に重くなることがあります。

さらに、
- 子どもの法定相続分は配偶者よりも少ない
- 基礎控除額も減る
- 「小規模宅地等の特例」が使えない場合がある
などの理由から、一次相続よりも税金が高額になるリスクが高いのです。
結果として、「一次相続で税金がかからなかったから安心」と思っていたら、二次相続で予想以上の税負担が発生してしまったという事態も十分に考えられます。
まとめ:安易な判断は禁物!家族で話し合い、専門家と一緒に最適な選択を
実家の名義をお母様に変えることには、「安心感がある」「相続税が軽くなるかも」といったメリットもありますが、将来の認知症リスクや、相続登記の手間・費用、さらに二次相続での相続税が高くなる可能性など、見逃せないデメリットもあります。

相続の問題は、お金のことだけでなく、「家族の気持ち」や「これからの暮らし方」にも深く関わってきます。特に、名義変更などの判断は、一度進めると簡単には引き返せないこともあります。
だからこそ、「とりあえず母親名義にしておこう」と安易に決めてしまう前に、
家族みんなで気持ちをすり合わせ、将来のことも含めてよく話し合うことが大切です。
そして、可能であれば司法書士などの専門家にも相談して、それぞれのご家庭に合ったベストな方法を見つけていきましょう。

