相続手続きというと、「面倒でお金もかかるもの」といったイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。特に、故人の預金が数万円などごくわずかだった場合、わざわざ手続きをするまでもないと感じて放置している方もいらっしゃるかもしれません。
「父が亡くなったけれど、預金がほんの数万円しかなくてそのままにしている」
「引き出すのに手間も費用もかかるなら、あきらめた方が早いかも……」
そう思って手をつけていない方も、実は少なくありません。
しかし、たとえ少額でも「お金はお金」です。そして実は、ある条件を満たせば、非常に簡単な手続きで引き出すことができる制度も存在します。
今回は、司法書士・杉山先生の動画内容をもとに、「少額の預金を相続するためのシンプルな手続き」について解説していきます。

手続きを簡単にして預貯金を引き出すための条件とは?
相続手続きは本来、戸籍や遺産分割協議書の提出などが必要で手間がかかりますが、ある条件を満たすと、より簡単な方法で故人の預貯金を引き出すことができます。
その条件は主に2つです。
1.預金の金額が「少額」であること

「少額」とは、具体的にどのくらいの金額を指すのでしょうか?
これは金融機関ごとに基準が異なりますが、おおよそ100万円以下と考えるのが一つの目安です。
ただし、50万円以下やそれ未満に設定されている金融機関もあります。事前に、対象の金融機関に直接確認することが大切です。

2.相続人同士で揉めていないこと

正確には、相続人全員が遺産の分け方について合意している必要があります。
金融機関に対しては、遺産分割をめぐる争いがなく、全員の同意が得られていることを示す必要があり、これが確認できないと簡易な手続きは利用できません。
【具体例で比較】預金額でこんなに違う!相続手続きのステップ
では、預金額によって手続きがどれほど変わるのか、具体的な例で比較してみましょう。
◆ Aさんのケース:預金額500万円(通常の相続手続き)
被相続人の預金額が500万円ある場合、金融機関から求められる手続きはフルコースになります。大まかな流れは次の3ステップです。

1.相続人を確定するための戸籍謄本の収集
まず必要になるのは、相続人が誰なのかを証明するための戸籍書類一式です。
- 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
これらの戸籍を揃えるには、本籍地が複数の自治体にまたがっている場合もあり、収集に1〜3ヶ月かかることも珍しくありません。
2.遺産分割協議書の作成
相続人全員で話し合い、「誰がいくら受け取るか」を決めて、書面(遺産分割協議書)にまとめる必要があります。
この書類には相続人全員の署名と実印の押印が必要で、印鑑証明書の提出もセットで求められます。

3.銀行所定の手続き用紙への署名・押印
各金融機関ごとの「相続手続依頼書」に相続人全員が署名・押印。こちらも印鑑証明書の提出が必要です。
のように、500万円規模の相続では、書類も手間も多く、相続人全員の協力が不可欠になります。
◆ Bさんのケース:預金額50万円(簡略化された手続き)
一方で、預金額が50万円程度の少額である場合は、手続きが大幅に簡素化されます。
1.限定的な戸籍の提出でOK

「全戸籍一式」が不要なこともあります。
- 被相続人が死亡したことが確認できる戸籍
- 手続きをする相続人が、被相続人の子など法定相続人であることがわかる戸籍
上記のように、必要書類は必要最小限で済むことが多いです。
2.遺産分割協議書の提出不要なケースが多い
相続人全員の合意が取れており、金融機関にその旨を伝える書面(誓約書など)を提出すれば、遺産分割協議書を省略できる場合があります。
3.印鑑証明書や全員の署名が不要な場合も
手続きを行う代表者1名の署名・押印、本人確認書類だけで完結できる金融機関もあります。ただし、金融機関によっては、「相続人間で揉めていません」といった内容の誓約書への署名を求められることがあります。
このように、Bさんのように預金が少額であれば、必要書類も労力もぐっと少なくなります。
少額預金の相続手続きで注意すべきポイント
簡略化できるとはいえ、いくつか注意点もあります。
● 不動産がある場合は対象外
相続財産の中に不動産が含まれていると、相続登記のために遺産分割協議書や全戸籍が必須となり、簡易手続きは利用できません。
この簡易的な方法が使えるのは、あくまで「現金(預貯金)のみ」の場合です。

● 本当に少額(数千円~数万円)ならもっと簡単に
金融機関によっては、預金残高がごくわずかな場合、通帳・銀行印・本人確認書類のみで通常の口座解約と同様の対応をしてくれることもあります。
● 放置すると「休眠口座」になるリスクも
少額だからと放っておくと、長期間経過後に口座が「休眠扱い」になり、引き出す手続きがより面倒になる可能性もあります。
たとえ数万円でも、引き出せるうちにきちんと手続きをしておくのが賢明です。

まとめ:諦める前に、まずは金融機関に確認を!
亡くなった方の預金が少額である場合、相続手続きは思っているよりも簡単に済む可能性があります。
1.預金額が100万円以下(あくまで目安)
2.相続人間で争いがないこと
これらに当てはまる場合は、まず金融機関に問い合わせて、必要な書類や手続きの流れを確認しましょう。
それでも「自分で進めるのが不安」「戸籍の収集が大変そう」と感じる方は、司法書士など専門家に相談するのがおすすめです。杉山事務所では、相続に関する様々なご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
この記事が、皆さまの相続手続きの助けとなれば幸いです。

