「親の万が一に備えて、今のうちに銀行からお金を…」
「葬儀代や入院費って、口座が凍結されたらどうするの?」
ご家族の相続を前に、こんな不安が頭をよぎることはありませんか? 特に、亡くなる直前の預金引き出しについては「節税になる?」「後で問題になる?」といった声もよく耳にします。
今回の記事では、司法書士の杉山先生のお話をもとに、「亡くなる前の預金の引き出し」についての注意点や落とし穴をわかりやすくご紹介します。
実はこの問題、ちょっとした行動の差で、後々大きなトラブルや税金の負担につながってしまうことも。
大切な人を守るつもりが、思わぬ結果につながらないよう、ぜひ最後までチェックしてみてください。

亡くなる前の預金引き出し:その理由と法的な取り扱い
人が亡くなると、その方の銀行口座は原則として凍結されます。
これは、相続人が確定し、正式な手続きが完了するまでの間に、預金が勝手に使われたり、引き出されたりするのを防ぐためです。
しかし、口座が凍結されると、
・医療費の最終的な精算
・葬儀や火葬などの費用の支払い
・介護施設や老人ホームの利用料の清算
・故人の住居にかかる費用(家賃、光熱費、管理費など)
といった当面の支払いに困るケースも少なくありません。
そのため、「亡くなる前に、必要な分だけ預金を引き出しておきたい」と考えるのは自然なことです。
実際、こうした費用のために預金を引き出すこと自体は、法的に問題になることはありません。
これらは故人のために支払うべき「債務」として扱われるため、相続財産から差し引くことが可能です(債務控除)。

ただし、
何にいくら使ったのか、あとから説明できるように領収書や明細書などは必ず保管しておきましょう。
一方で、「現金にしておけば、相続財産が減って節税になるのでは?」という考えは誤解です。
相続税は、亡くなった日(=相続開始日)時点で保有していた全財産を基に計算されます。
預金から引き出された現金も「手許現金」として評価され、課税対象から除外されることはありません。
また、金融機関が口座の名義人(被相続人)の死亡を知った時点で、その口座は凍結されます。
ただし、多くの場合それは相続人から金融機関への連絡によって初めて行われます。

「亡くなる前に急いで引き出さなきゃ!」と慌てる必要は、基本的にはありません。
【要注意!】問題となる預金の引き出し方と法的リスク
亡くなる前に預金を引き出すこと自体は必ずしも違法ではありませんが、その使い方や申告の仕方によっては、重大なトラブルや法的リスクにつながるケースもあります。
特に、以下の点には注意が必要です。
➀相続人による私的流用と申告漏れ

一番問題なのは、引き出したお金を自分の生活費や借金返済などに使ってしまうケースです。
これは他の相続人の権利を侵害するだけでなく、窃盗や横領といった刑事責任に問われる可能性もあります。
また、引き出したお金(=手許現金)も相続財産に含まれるため、相続税の申告対象となります。
それを申告せずに隠してしまった場合、税務署から「申告漏れ」と判断され、次のようなペナルティが発生します。
・過失による申告漏れの場合
「過少申告加算税」が課されます(本来納める税額の10~15%)
・意図的な財産隠しと判断された場合
「重加算税」が課されます(追加で納める税額の35%、無申告の場合は最大40%)

②他の相続人への無断での引き出し
たとえ使い道が故人のためであっても、他の相続人に無断で預金を引き出すのは危険です。
「何に使ったのか」「その金額は妥当だったのか」といった不信感が生まれ、
→ 相続人間のトラブルや紛争に発展するリスクがあります。
正当な支出であっても、事前に相談し、領収書などで使途を明確にしておくことが大切です。
最後に:正しい知識で、円満かつ適切な相続手続きを
亡くなる前の預金引き出しは、その目的・方法・その後の処理によって、法務・税務上の評価が大きく変わってきます。
だからこそ、正しい知識を持ち、適切に対応することが大切です。
【相続前の預金取り扱いにおける3つの重要ポイント】
1.支出の目的と証拠の明確化
── 「故人のための支出」であることが客観的に分かるよう、領収書やメモを残す。
2.相続税評価の正確な理解:
── 引き出した現金も「相続財産」に含まれることを忘れず、正しく申告する。
3.透明性と情報共有の徹底:
── 他の相続人とよく話し合い、不信感を生まないよう丁寧に説明・共有する。

相続手続きは、故人の意思を大切にしながら、残されたご家族が協力し合って進めることが理想です。
預金の取り扱いひとつとっても、事前に正しい知識を持っておくことが、無用なトラブルを防ぎ、スムーズな相続につながります。
万が一、相続に関する手続きや預金の扱いに迷った場合は、ご自身で判断せず、司法書士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
この記事が、皆さまの相続に関する疑問を解消する一助となれば幸いです。

