「親の預金口座の名義変更、いつまでにすればいいの?」
ある日突然、大切な家族を失った悲しみの中で、待ったなしで始まるのが「相続手続き」です。
多くの方が、途方に暮れてしまうのではないでしょうか。
しかし、この相続手続き、順番を一つ間違えるだけで、支払う相続税が何倍にも膨れ上がったり、良かれと思ってやったことが原因で、家族間に深刻な亀裂を生んでしまったりすることがあるのです。
この記事では、数多くの相続案件を手がけてきた司法書士・杉山一穂先生の解説をもとに、「損をしないための正しい相続手続きの順番」と、名義変更の「最適なタイミング」について、徹底的に解説します。
はじめに:相続手続きの期限を知っておこう
まず、基本的な期限を確認しましょう。
・相続税の申告・納税:相続が発生してから10ヶ月以内
・不動産の相続登記:相続を知った日から3年以内
一方で、亡くなった方の預金や有価証券については、現在の法律では「この日までに名義変更をしなければならない」という明確な期日は存在しません。
だからこそ、「いつ、どのタイミングで手続きをすればいいのか?」と悩んでしまうのです。
なぜ「名義変更のタイミング」がそんなに重要なのか?
そもそも、なぜ名義変更のタイミングが重要なのでしょうか。
それは、相続税や家族間トラブルなど、大きな問題につながる可能性があるからです。
相続は、財産全体を分ける大切な手続きの流れです。
話し合い前に名義変更をすると、
【税金で大損するリスク】
相続税には、税額を大幅に軽減できる特例(例:小規模宅地等の特例)がありますが、手続きの順番を間違えると、この特例が使えなくなることがあります。
【家族が揉めるリスク】
相続人全員の合意なく財産を動かすと、「不公平だ!」と他の相続人から不満が出て、深刻なトラブルに発展する可能性があります。
これらのリスクを避けるためにも、正しい手順とタイミングを知っておくことが不可欠なのです。
相続発生から手続き完了までの流れ
では、具体的にどのような流れで進めれば、失敗しないのでしょうか。まずは全体の流れを掴みましょう。
STEP1:相続の準備期間(相続発生~四十九日まで)
ご家族が亡くなられてから四十九日までは、葬儀や法要で非常に慌ただしい時期です。同時に、役所での手続きも必要になります。
【この時期にやること】
・死亡届の提出
・健康保険や年金関係の手続き
・世帯主の変更届の提出
・公共料金の解約や名義変更 など

本格的な財産の話は、まずはこの期間を乗り越え、少し気持ちが落ち着いてからで大丈夫です。
STEP 2:財産の全体像を把握する(書類集めと財産目録の作成)
四十九日を過ぎたら、いよいよ相続手続きのスタートです。まずは、故人が遺した財産を正確に把握しましょう。
【集めるべき書類チェックリスト】
✅ 預金・有価証券関連
- 預金通帳(紛失している場合は、金融機関で「残高証明書」を取得)
- 出資証券(信用金庫など)
- 取引残高報告書(証券会社)
✅ 不動産関連
- 固定資産税通知書(課税明細書)
- 権利証(登記識別情報)
- 賃貸借契約書(アパート経営などをしていた場合)
✅ その他
- 保険証券(生命保険に加入していた場合)
- 死亡退職金の支払明細書(会社員だった場合)
- 自動車の車検証、ゴルフ会員権など
これらの書類が集まったら、全財産を一覧にした「財産目録」を作成します。この目録が、後の話し合いの土台となります。
また書類集めには、平均して1〜2ヶ月ほどかかります。同時に、相続人を法的に確定させるため、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と、相続人全員の現在の戸籍謄本も取得しておきましょう。

💡 プロからのアドバイス
不動産の評価など、専門知識が必要な部分も多いため、不安な方は税理士などの専門家に作成を依頼することをおすすめします。正確な評価が、後の税務調査リスクを避けることにも繋がります。
STEP 3:相続人全員で話し合う(遺産分割協議)
財産の全容が明らかになったら、相続人全員で「遺産分割協議」を行います。

ここでは、財産目録をもとに、「誰が、どの財産を、どれだけ受け取るか」を具体的に話し合います。全員が納得したら、その内容を「遺産分割協議書」という正式な書面にまとめ、相続人全員が署名・実印を押印します。これで、誰が何を受け取るかが法的に確定します。
STEP 4:名義変更と各種手続きの実行
遺産分割協議書が完成して、初めて「名義変更」のステップに進みます。
協議書の内容に従って、銀行で預金の名義変更をしたり、法務局で不動産の相続登記を行ったりします。
相続税がかかる場合は、このタイミングで税務署への申告と納税も行います。(※申告期限は相続発生から10ヶ月以内です!)
【結論】名義変更の鉄則は「遺産分割協議が終わるまで絶対に動かない!」
ここまで読んでくださった方は、もうお分かりですね。
相続財産の名義変更における、たった一つの、そして最も重要な鉄則。それは…
「相続人全員による遺産分割協議が完了するまで、絶対に個別の財産の名義変更は行わない」
ということです。

焦って預金を引き出したり、不動産の名義を書き換えたりするのは絶対にやめましょう。まずは、全ての財産をテーブルの上に並べ、相続人全員で公平に分割方法を決める。この順番を、必ず守ってください。
まとめ:相続は「順番」が命
今回は、相続の名義変更の最適なタイミングについて解説しました。
- POINT 1: 名義変更のタイミングを間違えると、税金や家族関係で大きな損をするリスクがある。
- POINT 2: 相続手続きは、①書類集め → ②財産目録作成 → ③遺産分割協議 → ④名義変更の順番で進める。
- POINT 3: 名義変更は、必ず「遺産分割協議」が完了してから行うのが鉄則。
相続手続きは、専門的な知識が必要な場面も多く、非常に複雑です。もし、少しでも不安な点や、ご自身のケースでどうすれば良いか迷った場合は、一人で抱え込まずに司法書士などの専門家へ相談することが、最良の解決策への近道です。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。