破産手続ってどんなもの?
債務整理手続きのひとつである自己破産とは、当面の生活に必要なものを除いた財産を債権者に分配したうえで、残りの借金の支払義務を無くす手続です。
ただ、一般的に個人が自己破産手続をしなければならない状況においては、分配するほどの財産があることは少ないので裁判所に自己破産手続の申立をした場合、破産手続が開始したと同時に破産手続が終了する「同時廃止」という処理がなされることが多いのが実情です。借金を払わなくて良くなるという意味では債務整理の中でも効果の高いものであるといえます。
〈自己破産はいつからあるの?〉
古くは江戸時代にも「分散」という自己破産に似た手続がありました。債権者と債務者の合意によって債務者の財産を換金して分配するものですが、この手続は裁判所のような公権力が介在しない私的整理で、町役人などの立会の下に行なわれたとのことです。しかし、この「分散」は、手続の後に資力が回復すれば残りの借金を払う必要がありました。私的整理であるということや免責されないのが原則であるということからすると債務整理の中でも任意整理に近いものなのかもしれません。また、公権力が介在するという意味では、「身代限」(しんだいかぎり)という手続がありました。これは今でいう強制執行のようなもので、すべての債権者が参加する手続ではなかったようです。
明治時代に入って破産法ができましたが、対象者が商人に限られていたのでそれ以外の人々は「家資分散法」を利用していました。家資分散の宣告を受けるとペナルティとして選挙権を失うことになっていたので、随分懲罰的な手続であったといえるでしょう。「自己破産をすると選挙権がなくなるの?」という質問を受けることがありますが、この影響なのかもしれませんね。もちろん現在の破産法では選挙権を失うことはありません。
大正時代に至ると、商人以外の人々も対象となる破産法が成立しましたが、破産をすることで債務の返済義務を免れる「免責」の制度はまだありませんでした。破産手続による免責制度ができたのは、第二次世界大戦も終わった昭和27年のことです。
なお、「免責」されることによって借金を返済する義務を免れるのですが、一般的な理解ではあくまで借金を返済する責任が無くなるだけであり、借金そのものが無くなるわけではないとされています(債権者が「借金を返せ!」と言えなくなるだけ)。
〈個人の破産はどんなもの?〉
はじめに述べたように消費者(個人)の破産手続として、もっとも多いものは同時廃止という処理です。ですから、自己破産のなかでも同時廃止という手続に焦点を当ててお話をしましょう。
同時廃止の場合には、破産申立することによるデメリットといえるものは、ほとんど無いと言ってよいでしょう。選挙権については先程述べたとおりですが、生活必需品として認められる範囲の財産については処分されることもないし、賃貸住宅に住んでいる場合には原則自宅から退去する必要もありません。もちろん一定の現金を保持したままで自己破産することができます。
デメリットといえば特定の職業(ほとんどの場合は資格を必要とするもの)に就いている場合に、手続終了までの間就業できない事が挙げられますが、対象となるのはごく一部の人でしかありません。
〈同時廃止にならない場合は〉
破産者が換価して分配をしなければならない財産を持っている場合には、同時廃止という処理ができずに裁判所によって選任された破産管財人によって財産の処分等が行なわれます。これを管財事件といい本来の破産手続の姿です。また、財産を持っていない場合でも、借入れの原因がギャンブルであるなど免責不許可事由がある方で、生活改善を要するようなときも破産管財人が選任されるケースがあります。自己破産手続では、退職金についてもその一部が現在保有する財産とみなされるので、自分では財産がないと思っていても手続上、財産を持っているとみなければならない場合もあり、専門家への相談は必須となります。
〈破産手続をすれば会社や家族にばれる?!〉
債務整理手続をするにあたって、皆さんが一番気にする部分は「会社や家族にばれるかどうか」でしょう。借入れをしていること自体が内緒である場合が多いので、そういった方は、もちろん債務整理についても会社や家族にばれることを心配されます。債務整理にはいくつかの種類があって、その手続ごとに家族にばれるか内緒にできるかには差が出てくることになりますが、自己破産手続においては家族にばれる可能性は低くないといえるでしょう。なぜなら、家族の収入を証明する書類の提出が必要であったり、家計簿(家計収支表)の提出が必要であったりと、家族の協力を要するものがいくつか存在します。ですから、家族にばれることなく手続をすることは困難となっています。とはいえ、さまざまな条件が揃えば家族にばれることなく手続を進められる可能性も残されていますので、一度専門家にその可能性を尋ねてみましょう。また、勤務先の会社には、ばれることなく進められる場合がほとんどですが、会社からお金を借りていれば手続上、会社に通知しない訳にはいきません。
〈自己破産とデメリット〉
債務整理全般を行なう上で、相談者の皆さんはデメリットばかりに目を奪われているように思います。債務整理をすれば信用情報機関にその内容(破産手続ならば破産したこと)が掲載されるのですが、大半の方がデメリットであると考える傾向にあります。しかし、新たな借入れができなくなることやクレジットカードの利用が難しくなることは決してデメリットなどではなく、自らの収入・支出を管理し貯蓄ができる生活へのパスポートであると我々は考えます。
「会社にばれる」「家族にばれる」という心配は十分に理解できます。もちろん我々も皆さんの「ばれることなく債務整理したい」という要望に応えたいという気持ちはありますが、我々の力ではどうにもできないこともあります。デメリットばかり思い浮かんでしまう方は一度債務整理のメリットを考えてみてください。自己破産であれば借金を払う必要がなくなるという事実。何百万円という借金の支払義務がなくなることとデメリットをしっかり比較して検討してみると新たな考えが浮かんでくるかもしれません。しかし、借りたお金は返すのが当然。安易に破産を選択するという倫理観の欠如には注意しなければなりません。
司法書士 T